大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)826号・昭29年(う)827号 判決

次に、被告人松葉徳松に関する原判示第二の事実をみるに、原判決は、稲葉保男に対し、覚せい剤三千四百十本位を、隠匿方依頼の上、譲渡したものであると認定判示して、覚せい剤取締法第第十七条第四十一条第一項第四号等を適用処断しているのであるが、右認定の隠匿方依頼の上譲渡したというのは、如何なる趣旨であるか。この点に関する原判決掲記の証拠を検討すると、右覚せい剤は、被告人松葉が所持していたものであるが、捜査機関の取締が厳重となつたので、その発覚を免かれるために、一時これを隠匿して貰うように相被告人稲葉に依頼し、同人がこれを承諾したので、右覚せい剤を同人に交付したものであると認められる。およそ、覚せい剤取締法第十七条にいうところの譲り渡しとは、販売、贈与等所有権の移転を伴う場合のみに限らず、販売を依頼して交付する場合も含むものと解するを相当とする(最高裁判所昭和二六年(あ)第三六三四号昭和二十七年四月十七日第一小法廷判決、同判例集第六巻第四号六百七十八頁、札幌高等裁判所昭和二七年(う)第三二六号昭和二十七年九月四日第三部判決、高等裁判所判例集第五巻第十号千六百三十九頁、福岡高等裁判所昭和二十七年(う)第一五五六乃至一五六〇号昭和二十七年九月十六日第三刑事部判決、同判例集第五巻第十号千七百六頁参照)のであるが、右認定の事実関係をもつてしては、いまだ被告人松葉より稲葉に譲り渡されたものとは到底認めることができない。原判決のこの点には、事実の誤認があり、その誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである。なお、原判決は、前記のように覚せい剤取締法第十七条とのみ掲記し、同法条の第何項に該当するかを明記していないが、その第三項の趣旨であると認められるけれども、同法条の各項は、所犯の犯人の資格によつて、該当条項に差異があるのであるから、これを正確に掲記しなければ、認定事実に対する法令の適用を示すのに不十分であるとのそしりを免かれない。更に、原判示第二の事実を起訴状と対照して見ると、原判決の判示事実は、前同様に起訴状記載の公訴事実をそのまま丸写しにしたものであり、それがために前記のように意味不明な隠匿方依頼の上譲渡したというような文言がそのまま罪となるべき事実として判示されるに至り、裁判所が認定判示すべき罪となるべき事実が適切正確を欠き、延いては裁判の権威に疑念を抱かしめるに至るを保し難きを憂えるのである。もともと、その基因は、不明確な公訴事実を記載してある起訴状にあるのであつて、果して、この公訴事実に関する罰条の記載を見ると、覚せい剤取締法第十七条第四十二条第四十四条第三項と記載されてあり、右の第十七条以外の規定は、それが如何なる誤解によつて記載されたのか、その記載が誤記であることは明らかであるが、これが誤記に関しても、原裁判所は、一と言の釈明も求めず、訴因は、譲渡禁止違反の事実であると速断し、かく解することが公訴事実の記載からみて相当であるとは認められるが、原裁判所の訴訟指揮の措置には納得し難い点があるとの感を抱かざるを得ない。

(裁判長判事 高橋嘉平 判事 山口正章 判事 海部安昌)

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